「魔王/シューベルト」の歌詞対訳と解説【Erlkönig/F.Schubert】

2020年2月15日

みなさん、こんにちは!声楽家&ボイストレーナーの森善虎(@moritora810)です。今日はシューベルが作曲した魔王(Erlkönig)の歌詞対訳をまとめたいと思います。

まず基礎知識として、魔王はオーストリアの作曲家であるフランツ・シューベルト(Franz Peter Schubert,1797-1828年)によって1815年に作曲されました。詩は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe,1749 – 1832)のものが使われています。

シューベルトはゲーテを信仰しており、この詩に感動して作曲をしました。もちろん、シューベルトは曲が出来てからゲーテにこの曲を送ったのですが、最初はゲーテにあまり良い曲だと思われませんでした。というのも、当時の音楽界ではピアノが場景を表現するというは異質だったんですね。イタリア古典歌曲集とかを想像すると分かりますが、当時、ピアノ声部は通奏低音的な役割が大きかったのです。しかし、ゲーテは晩年になってこの曲を演奏会で聴く機会があり、評価を改めたと言われています。シューベルトは他にもゲーテの詩に数多く作曲しています。代表的なもので「野ばら」などがあります。

魔王の詩には「語り手・父親・息子・魔王」の4人が登場します。ちなみに「魔王(Erlkönig)」という言葉はゲーテが造った言葉だと言われています。また、この詩はドイツの義務教育で必ず勉強するそうです。

歌手にとっては4人の登場人物を歌い方を分けて表現するので非常に難曲ですが、ピアニストにとっても右手の三連符が非常に難しいです。腱鞘炎になるんじゃないかと思います。笑

今回は魔王の詩を対訳形式で見ていきたいと思います。対訳は直訳的に載せていきます。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳①

Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?/(語り)誰がこんなに遅く夜と風を通って(抜けて)馬を駆っているの?
Es ist der Vater mit seinem Kind;/それは父親とその子ども
Er hat den Knaben wohl in dem Arm,/彼は腕の中にしっかりと子どもを抱き締め、
Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm./子どもをしっかりと抱え、暖めている。

ドイツ語的に解説すると、めちゃくちゃ簡単な文章構造でしか書かれていません。内容はとてもシンプルです。普通の大人であれば、子どもを病院に連れていこうとしているのだろうと想像できます。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳②

“Mein Sohn, was birgst du so bang dein Gesicht?”/(父親)息子よ、なぜおまえはそのように不安な表情をしているんだい?
“Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?/(子ども)見て、お父さん、あなたは魔王が見えない?
Den Erlenkönig mit Kron und Schweif?”/王冠と尻尾のある魔王が?
“Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif.”/息子よ、それは霧がたなびている。

魔王に王冠があるということは、王様ということです。魔王は基本的に死の象徴で、つまり「死の神」ということを表現しています。最後に魔王に捉まって子どもは亡くなってしまうので分かり易いですね。ここでは霧のたなびきが子どもには「魔王」に見えています。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳③

“Du liebes Kind, komm, geh mit mir!/(魔王)おまえ、可愛い坊や、おいで、私と一緒にいこう!
Gar schöne Spiele spiel ich mit dir;/本当に楽しい遊びを、私と一緒にしよう!
Manch bunte Blumen sind an dem Strand,/色鮮やかな花々が岸辺には沢山あって、
Meine Mutter hat manch gülden Gewand.”/私のお母さんは金色の衣装も持っているよ!

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳④

“Mein Vater, mein Vater, und hörst du nicht,/(子ども)お父さん、お父さん、あなたは聞こえないの?
Was Erlenkönig mir leise verspricht?”/魔王が私に小さな声で約束していることが?
“Sei ruhig, bleibe ruhig, mein Kind;/(父親)落ち着いて、落ち着いて、息子よ、
In dürren Blättern säuselt der Wind.”/風が枯葉でざわめいているんだよ

2行目のWasから始まる文章は、最後に疑問詞の?がついていますが、疑問文ではなくて、関係代名詞の構文です。英語のWhat構文と同じで、「~なこと」という風に訳します。3行目は「ruhig」を「sein」(英語のbe動詞:~である)と「bleiben」(英語のstay:留まる)の二つの動詞で表現していますね。どうやら子どもは五感が鋭くなっているようです。ここでは枯葉の「音」が魔王に見ています。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳⑤

“Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?/(魔王)とても良い子だ、あなたは私と一緒にいこう!
Meine Töchter sollen dich warten schön;/私の娘たちがあなたを待っている
Meine Töchter führen den nächtlichen Reihn/私の娘たちが夜会に連れていく、
Und wiegen und tanzen und singen dich ein”/そして揺れて、踊って、一緒に歌おう!

1行目の「feiner Knabe」は「du」と同格の呼びかけです。Willはかなり強い意思を表すので、かなり強い誘いであることが分かります。シューベルトは4人の登場人物に対して、別々に異なった音型を与えています。この詩の箇所では「踊り」が強調されるピアノとメロディラインが付けられています。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳⑥

“Mein Vater, mein Vater, und siehst du nicht dort/(息子)お父さん、お父さん、あなたは見えないの?
Erlkönigs Töchter am düstern Ort?”/魔王の娘たちが、あそこの薄暗いところにいるのが?
“Mein Sohn, mein Sohn, ich seh es genau,/(父親)息子よ、息子よ、私はそれがもちろん見える。
Es scheinen die alten Weiden so grau.”/それは灰色の古い柳の木が見えるのだ。

3行目の「genau」は「ハッキリと」という意味でもよいと思います。明白であることや、当然であることによく相槌などでも使う言葉です。魔王には「mein Vater」(お父さん)という言葉と「mein Sohn」(息子よ)という言葉がでてきますが、この音型が恐怖のときは上行系落ち着いているときは下降系で書かれているのも非常によくできていますよね!

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳⑦

“Ich liebe dich, mich reizt deine schöne Gestalt,/(魔王)私は君を愛している、私をあなたの美しい姿魅了するんだ、
Und bist du nicht willig, so brauch ich Gewalt.”/もし君にその気がなくても、私は力づくで必要とするよ!
“Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!/(子ども)お父さん、お父さん、彼(魔王)が今、私に触った!
Erlkönig hat mir ein Leids getan!”/魔王は私に痛み(苦しみ)を与えた!

魔王はもちろん病気や病魔のこと、死の象徴であるとする考え方が一般的ですが、この部分があまりにも強い表現なので、ある一説では父親に虐待されている子どもなのではないかとする説もあるほどだそうです。最後の4行目は過去完了系で表現されており、getanは「~された」というのが正しいかと思います。英語の「done」ですね。

「魔王/シューベルト」の歌詞対訳⑧

Dem Vater grauset’s, er reitet geschwind,/(語り)父親は今日を覚えて、馬を素早く駆った、
Er hält in dem Armen das ächzende Kind,/彼はうめく息子を腕に抱き締めて、
Erreicht den Hof mit Müh und Not;/やっとの思いで館にたどり着くと、
In seinen Armen das Kind war tot./彼の腕の中でその子どもは死んでいた。

魔王は語り部ではじまり、語り部で終わります。こういった詩のスタイルは「物語詩」と呼ばれ、英語言うと「バラード」です。つまりストーリーがある詩のことですね。3行目の「mit Müh und Not」は「やっとの思いで(かろうじて)」と訳していますが、直訳的には「苦労と困難を伴って」です。ただ、ここでは熟語的な使い方としてそういう風になっています。

お勧めの書籍と演奏

魔王はめちゃくちゃ有名な作品なので沢山の研究やCDの録音があります。私でも10人分ぐらいの録音を持っていますが、どの演奏が良いかと言われると好みの問題も出て来ると思います。しかし、やはりドイツの詩でオーストリアの作曲家が作曲したわけですから、ドイツ語圏の歌手が一番よいのではないかと思います。

この曲を歌っているバリトンだとやはりフィッシャーディースカウ、最近であればゲルネやクヴァストフ、テノールであればボストリッジ、ソプラノであればジェシーノーマンが迫力があって好きです。この辺りはどうぞ聴き比べて好きな歌手を見つけてみてください!それではまた次回!

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