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声楽の学生がドイツで求められているレベルと発声の話

声楽の学生がドイツで求められているレベルと発声の話

Herzlich Willkommen!! どうも、Torayoshiです。先日リューベック音楽大学の入試が終わりました。残念ながら結果は不合格だったので、ベルリン芸大と合わせて今回の受験は全滅しました。

なんでこんなに受験校が少ないのかというと、他にも4校受験の申し込みをしていたのですが、1校は私が既に日本の大学や大学院で12ゼメスター(簡単に言うと6年間)音楽を勉強していたので大学の規定で受験できないという通知がきて、他の3校はあとの2校と受験日程がかぶっていたので結果として2校のみの受験となりました。

もちろん事前に試験日は調べていたのですが、事前に発表されていた期間と異なっていたり、そもそも申し込み時点で試験日程が発表されていないところもあったりするので、しょうがないのかなという気がします。ただ、1校の申し込み手数料が約50€なので受験できなかった200€分がロスになったのは少し痛いところがあります。

さて、試験自体はどうだったのかというと、リューベックの試験はかなりうまくいきました。というのも、発声的に一皮向けて新しい声で試験にのぞむことができたからです。声楽の勉強をしている人は分かると思いますが、発声迷子になって(壁にぶつかって)、確信的に新しいものを見つけるとぐんと伸びます。とにかく今はそういう状態で、おそらく人生で一番良い声が出てます。

リューベックの入学試験は大学のホールで行われ、私はBellini作曲のオペラ「清教徒」から、”Ah! per sempre io ti perdei”のアリアを歌ったのですが、コミッションの代表のような人から「Wunderbar!(素晴らしい)」と言われました。自分で言うのもなんですが、一曲を通して力まずに、常に高いポジションをキープしながらノーブルに歌えたように思えます。

しかしそれでもなかなか現実は厳しく、今回のリューベックに限って言えばマスターの歌で68人が受験していました。そして受験生の歌は袖でドア越しで聞くことができたのですが、レベルはマジでめちゃくちゃ高かったです。国籍割合で言うと日本人は2人に対して、韓国人&中国人は合わせて50~60人程度受験しています。

それに加えて、Sommersemesterはもともと入学できる人数(プラッツ)が少ないので、倍率は軽く10倍越えといったところだと思います。しかし今回は自分の力を出し切れた感があるので、それでダメならしょうがなかったという気がします。もちろん、足りなかった部分はあるのは自覚していますが、それはこれから道が見えているので練習するのが楽しみです。そんなわけで最近声が乗っているので、今回の記事は私が個人的に声の成長について大事だと感じたことについてまとめました。


声の成長に一番必要なのは客観性

今回どうして声が良くなったのかと言うと、「人の批判的な意見を真剣に受け止めて、既存の自分の声を否定できたから」ということがあります。

よく聞く話かと思いますが、人は自分自身の現状に満足した瞬間に成長が止まってしまいます。歌に関して言えば、「自分は上手い(歌えている)」とか、人と比べて、「自分は誰々と比べて優れている」とか考えてしまった瞬間に成長が著しく阻害されます。

これはどんな分野であっても通じることであろうと思いますが、我々のように何かを追求してる人間は、「上には上がいる」ということを常に肝に銘じておかなければなりません。

そしてこれは傾向としてですが、「本当に上手い人ほど偉ぶらない&謙虚で向上心がある」ということです。今回は最近日本やドイツで受けたレッスンと、友人の助言を元に自分の発声について改善を行いました。特に友人らは、受験一週間前から私の稽古に何時間も付き合ってくれ、私の声について正直な意見を述べてくれました。

彼らは既にドイツ国内の音楽大学の修士課程で声楽を勉強しており、学校で学んだ様々なメソッドやドイツの音楽大学で教えられている発声の方向性や音楽性などを教わることができました。今回はそうった期間を通して自分の声と真摯に真正面から向き合い、想像力を働かせながら耳を研ぎ澄まして自分の声を変えていこうとしました。

段階的には、「①自分のレベルがめちゃくちゃ低いと心から認める→②言われていることを真っ新な状態から具体的に理解する→③全ての助言を実践しようと試みる」という感じです。

私の場合、大事なのは出発点が自己否定であったことです。私はそれまで、「①自分は結構歌えるはずだ→②言われていることを自分の発声を元にして理解しようとする→③実行する」というプロセスで練習していました。

しかし、今回前者の意識で実践してみて分かったことですが、後者のやり方は速度が遅く、劇的な成長が期待できないということです。そういった理由から、私は今後自己否定をもっと積極的に、ポジティブに使っていきたいと考えています。

おそらく、私と同じぐらいの年代の人だとあるあるだと思いますが、何年も歌を歌ってくると自分の発声に慣れてきたり、歌い方が固定化されてきたりします。しかしそれはもしかすると成長という側面において邪魔になるのではないかと今回思いました。

もちろん、一度身に着けたものを脱ぎ捨てるのは容易ではないですが、それでも、より良い声を目指す上でそのプロセスは欠かせないように思います。常に自分の声に疑問を持ち、集中して声のことを考えることが本当に大切なんだなと実感しました。


ドイツの修士課程で求められるレベル

先ほども触れた通り、ドイツの修士課程で求められているレベルは本当に高いです。これは言葉の通りで本当にレベルが高いのです。理由は単純で、世界中から歌手が集まってきているからです。つまりそれは総じて、ドイツの音大から我々受験生に求められているレベルが高いことを意味しています。

他の記事で触れたこともありますが、もし我々東洋人がヨーロッパでオペラを歌いたいと思った時には、西洋人と比べると言語や容姿といった部分である程度のハンディキャップを負っています。残念ながらアルフレードはアルフレードであって、森さんではないのです。

またその役のモデルは西洋人であることを意味しています。これは決して差別ではなく、単純にそれが現状だということなのです。歌手の職場である劇場側からすると、言語が不自由だったり容姿が役のイメージと違う東洋人を雇うよりも、言語に不自由がなく、役にも容姿がマッチする西洋人を雇う方が合理的で簡単なのです。

その前提条件を飛び越えていくには、必ず他の人(アジア人)より頭ひとつ抜けている必要があります。それは言語に不自由がないことはもちろんですが、おそらく最も重要なファクターは発声です。もしドイツで受験をしたい人がいるのであれば、それを理解した上で受験をする必要があります。

そしてひとつ大切なポイントは、「ドイツで評価される発声と日本で評価される発声は違う」ということです。しかしきちんと正しく言えば、「日本で評価された発声がドイツで通用しないことがある」というのが正解だろうと思います。

ドイツで評価される発声は日本でも通用しますが、その逆は難しいことがあるということです。ですので、もし日本では上手くいっていたのにドイツで受験に落ちたのであれば、私を含めて自分の発声に何か問題があるのだと考える必要があります。

日本人か否かに関わらず、ドイツに来てから多くの素晴らしい声に出会ってきましたがそれでも試験に通らない人は山ほどいます。そういったことから考えても、もし入試に落ちた場合は、「自分が東洋人だから落ちた」と考えるのはある意味正しいのですが、考え方としては甘いのだろうと思います。それは単純に自分のレベルが足りなかったから落ちているのです。


何故多くの人がドイツの音大で学びたいのか

なぜ多くの人がドイツの音楽大学で学びたいのかと言うと、その一番の理由は教育水準が高いからです。ドイツの音楽大学で教えるには先生自身が歌の試験を受けなければなりません。

それだけではなく、Lehrerprobeといって、実際に生徒を教えるという試験もあります。生徒毎に適切な指導ができるかどうかもドイツでは教師になるための必須条件であり、その試験をパスしなければ大学の先生になるこができません。

また、社会的な権威や信頼度、給与も世界で一番待遇がいいので、そういったことも相まってドイツでは教師の質が高く維持されています。それと声楽の勉強といえばイタリアのイメージが強いですが、現実としてはイタリア人でもドイツで教鞭を取っていたり、学生でもイタリア人がドイツの音大で学んでいるという実情があります。

総数として劇場の数もドイツの方が多く、雇用形態も充実しているので、そういった意味でもやはりドイツの音大で学びたい人が多いのだろうと思います。

もちろん声楽の勉強について、イタリアよりドイツの方が良いと言いたいわけではありません。当然イタリアでも素晴らしい教育を受けることができます。

しかし、それを上回るほどドイツの音大は国際的に学生から人気が高いということです。他にも入学できれば学費がほぼ無料であることも人気を後押ししています。そういった理由でドイツの音大は今後もずっと倍率が高い状態が続くであろうと予測されます。


まとめ

声楽の勉強は大変です。自分の声を見つけたと思っても、それが本当に正しいのかどうかは信頼できる人(先生)が周りにいなければ確認することができません。そういった観点から、声楽家には人と信頼関係を築く才能も必要なのです。

しかし現実問題として、声楽の勉強を続けていると色々な人が色々なことを言います。そんな中で、「一体何を信じて勉強を続けていくのか。」「自分が志している音楽とは一体どういうものなのか。」ということが最も核となるのかもしれません。

声の向上には客観性が大事であるとか、方法論についていくらか語りましたが、結局のところ自分が目指している方向や、一体全体自分がどんな声楽家になりたいのかという目標がない人はどこにも辿り着くことができません。

私の師匠は、「方向を間違えたらいけない。もし途中で迷ったり寄り道したとしても、方向さえあっていればそこに近づいていく。だから一流を目指しなさい。」と言っていました。

もしこの記事を読んだ人で今後受験をする人がいれば、肝に銘じておいてください。受験は本当に大変ですし、マリアカラスの言うように我々は一生学生であり、声楽の道には終わりがありません。

もし自分に満足して立ち止まっていたら、それはあなたが若いころに、「この先生上手くもないのに威張ってて嫌だな」と思っていた、その人自身になってしまいます。同じ東洋人でも、韓国人や中国人はとっても沢山いて、しかもめちゃくちゃ良い発声でバンバン歌ってきます。

きっと嫌になることもあるかもしれまん。しかしそれでも、外国にまで来て学びたいと思った、その音楽への愛と情熱が多くのことをカバーしてくれるはずです。


ドイツで声楽を勉強したい人へオススメの本

ドイツの実情をもっと良く知りたい場合にはこちらの「夢の職業 オペラ歌手」という書籍をオススメします。ドイツの歌劇場で働くのがどいうことか、現場で実際にどういう人材が求められているのか?オペラのレパートリーについても、とても分かりやすく書かれています。私もドイツへ持って行ったほど重宝している一冊です。

それでは今日も勉強です!頑張っていきましょう!


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