「将棋」と「音楽」の意外な類似性 〈将棋はアンサンブル!?〉

「将棋」と「音楽」の意外な類似性〈将棋はアンサンブル!?〉

「将棋」と「音楽」、果たしてこの両者にどんな類似性があるのでしょうか?「アンサンブル」は一般的に音楽の用語ですが、将棋にそんな要素があるのでしょうか…?

今回は将棋のプロ養成機関である「奨励会」受験の経験もあり、現在クラシック音楽の声楽家として活動している筆者が、将棋と音楽の類似性・関係性を解き明かしていきます!

将棋の魅力とは?

将棋はボードゲームです。勝ち負けが着く勝負事であり、対局は1対1、将棋盤を挟んで行われます。将棋のルールで最も重要なのは「相手の王様を先に取ったら勝ち!」ということです。

将棋ではチェス同様に、最初から駒が初期配置の状態で並べられています。オセロや囲碁は1手打つごとに、盤面のマス目が減っていきますから、選べる手もそれに応じて減っていきます。

それに対して、将棋は指し手の数が減りません。将棋は最初の局面で30通りの指し方がありますが、それ以降も同じ数の指し手か、それ以上の選択肢があります。またチェスと異なり、将棋は取った駒を使うことができます。

そのため手の数が膨大になり、他のボードゲームより指し手が複雑になります。終盤と呼ばれる、手数が進んだ最後の局面でも大逆転が起きる可能性があります。

その面白い例が「手順前後」です。「先にこっちの手(A)を指したら勝ちだったけど、先にこっちの手(B)を指したから負けた!」という、AとBの順番を間違えたときの言葉です。料理のときに手順前後した経験をお持ちの方もいると思いますが、将棋では1手のミスで勝負が決してしまうことが度々あるのです!

ずっと難しい!どっちが勝つか最後まで分からない!それが将棋の魅力の一つと言えるでしょう。

相手がいることの面白さ

将棋で相手に勝つには「読み」が必要です。読みとは、「こうしたら、こうなって、次にこうなって、もし相手がこうきたらこうして…。」と手を読み進めていくことです。将棋ではこの読みが優れている方が勝つと言われています。それでは一体、優れた読みとはなんでしょうか…?

優れた読みとは、自分が有利になる方向へ局面を深く考えていくこと。そしてその過程で、相手の応対や指し手も含めて幅広く手順がカバーできているような状態です。

しかしここで問題が出てきます。それは、どんなに読みがズバ抜けた棋士でも、手を進めていくうちに、「自分の予想もしなかった手」が飛んでくることがあるのです。いわゆる「読みから外れた手」です。まさにこれが相手のいる将棋の面白いところで、彼らは新たに局面を考えていくことになります。

将棋棋士の使命とは?

将棋では一連の指し手を記録したものを「棋譜」と呼ぶのですが、この棋譜について将棋界の第一人者である羽生善治九段が、「個性と個性がぶつかってそこから生み出されたものの方が内容的にもより深いものが生まれる。考え方とか発想とか意見とか、そういうものが全く違った人との対局の方が面白いものが生まれる。(Red chairより)」と語っています。

将棋棋士の仕事は何かと問われれば、多くの棋士が「優れた棋譜を生み出すこと」と答えます。もちろん「勝つこと」も大切な仕事なのですが、将棋は常に勝敗が着いて必ずどちらかが負けてしまいます。勝率100%の棋士はこの世に存在しないので、勝ち負けだけを気にしていては発展性がありません。

それでは彼らの仕事はと言えば、最善手を模索する過程で新しい手を研究したり、局面を深めていくことです。そして、相手がいることによって「思ってもみなかった手(相手は最善手だと思っている手)」が出てきて、更にそこから新たな最善手を模索していくことを互いに繰り返します。そんな相乗効果による知能の応酬とバトルが、結果として素晴らしい棋譜を生み出すのです。

音楽の「音合わせ」は将棋の「検討」?

プロの音楽家は「音合わせ」とよばれる稽古のプロセスでお互いの意見を出し合って、どうすれば最高の演奏を造り出せるか議論を交わします。

音楽は時間を取り扱いますから、たとえば歌とピアノのアンサンブルでは次のようなことがあります。「最初は小さくスタートして、だんだん大きくしよう!そしたらここでピアノが入ってきて、綺麗なメロディを奏でるから、歌のパートは音量を押さえて…」のような具合です。

音楽家は、それぞれがこういった音楽のストーリー(読み筋)を持っています。

そしたら相手はこういう意見かもしれません。「最初は大きくスタートして、だんだん小さくしよう!そしたらここで入ってくるピアノのインパクトがあるんじゃないかな?とても綺麗なメロディだから。この箇所の歌の音量を抑えるのは私も賛成!」といった具合です。つまり、「楽譜」をもとにした自分の考え方を「検討」するという作業です。

実は将棋にもこれと似たような場面があります。将棋では対局が終わると同時に「棋譜」が完成します。そしてそこから「検討」と呼ばれる場で、各々が自分の「読み筋(ストーリー)」を確認し合うのです!

対局中はこの読み筋をお互いに確認することは出来ませんから、この側面を見ると将棋と音楽は手順前後ですね!

将棋はアンサンブル!?

アンサンブルとは合唱や合奏など、複数人で音楽をすることを意味しており、フランス語では「統一」「調和」という意味を持ちます。

ほとんどの方は小中学校で合唱をした経験があると思いますが、合唱というのは1つの曲(音楽)を一緒に、そして素敵に作り出そうとします。

どの分野にも共通していますが、人にはひとりで技術を高めたり訓練したりする時間があります。しかしその次の段階として、私たちは実際の現場で、誰かとアンサンブル・共同作業を行うことで、より良いものを生み出していきます

音楽家が「楽譜」を通して、仲間と一緒に質の高い「音楽」を作り上げようとするように、将棋の棋士は「対局」を通して対戦相手と一緒に最高の「棋譜」を作り上げようとしているのです。

これが将棋と音楽における「アンサンブルの類似性であり、あるいは質の高い仕事や良好な人間関係に共通するハーモニーなのだと思います。将棋の対戦相手はライバルであると同時に仲間なのですね!

将棋には幅広い楽しみ方がある〈まとめ〉

今回の記事では「将棋」と「音楽」の類似性を、読み筋や検討、棋譜や楽譜、アンサンブルといった側面から考えました。しかし、将棋には他にも沢山の楽しみ方があります。

将棋を実際に指す人はその指し手に感動することもありますし、心理や精神に関心のある方はこの勝負のメンタルについても気になることと思います。

また無数にある指し手から「どの手を選ぶのか」という決断力や直感、ひらめき。リスクを取るべき局面、劣勢のときの考え方、優勢のときの考え方といった思考法も非常に興味深いものがあります。というのも、これらの局面は人生で度々出てくる場面だからです。

もしかすると、将棋を通して新しい思考法や考え方を学べば、より素敵な人生の棋譜を生み出せるかもしれません…!是非、あなたも自分にあった将棋の楽しみ方を見つけて、将棋という日本の伝統文化を味わってみてください!

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