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※2019/3/27にYoutubeをはじめました!ボイトレの話は基本的にこちらで配信していきますので参考にしてみてください!

 

Herzlichen Willkommen!! ようこそ!Torayoshi(@moritora810)こと、声楽家・ボイストレーナーの森善虎です。ボイストレーニングをはじめて数か月が経過しました。レッスンでは若い方、お年をめされた方、趣味で学びたい方、プロを目指している方、アイドルの方、タレントの方、本当に色々な方がいらっしゃいます。そしてそんなレッスンをしていて感じるのは、本当に音楽(歌)というのものが多くの人に求められていて、そしてそれを楽しんでいるのだなということです。改めて音楽の大きさや広さ、その根源について考えさせられます。さて、そんなこともあり、この辺で少しボイストレーニングの実践的な内容についてブログにまとめておこうと思いました。というのも、私のレッスンを受けた人が、「あれなんだったっけな~」となった時、この記事を読めば思い出せるようにするためです。割と長めの記事になるので、時間の無い方は必要な項目をクリックして理解するようにしてください。しかしながら、歌の技術というのものは感覚的なものをどうにか言語で表現しようとしている節があるので、私が言いたいことと読んだ人の間に乖離があることもあります。ですので、もし内容で難しいことや分かりにくいことがあればご連絡ください。時間の許す限りお答えできればと思っております。それではようこそ!ボイストレーニングの世界へ!

まず初めにボイストレーニングを始める方(もしくはすでにボイストレーニングをはじめている方)にお伝えしたいことは、例え先生がどんなに優秀であっても、あるいはそうではなくても、「自分で学んでいこう!」という気持ちがあるかないかで成果が全く違います。主体性を持って学ぶことは、上達に欠かせない決定的な要因です。また、レッスンだけで上達しようとしてもそれには限界があります。普段の生活の中に、「どういう声が良い声かな~」とか「どうやったら高い音がでるかな~」とか考えていなければ中々上達はしません。一日の中で少しでもいいので声について考える時間を作ってください。電車で移動しているときの空き時間等で構いません。そして次に、出来れば初期の段階で「こういう風になりたい!」という目標やベクトルの方向を、何となくでもいいの見つけてください。ボーカルトレーナーの方々は自身の音楽経験や人生経験、そして技術を元にして皆さんと向き合っています。ですが、「本人がどういう風になりたいのか」ということや、「具体的にどういう方向性でいきたいのか」ということが分からなければ効率よくレッスンをすることが出来ませんし、生徒自身も方向性を持って学ぶことが出来ません。ただ、もし全くの初心者で、「自分がどういう声か分からない」という場合や、「何が出来て何ができないのか分からない」という場合には、素直にそのことを相談しましょう!きっと「あなたの声はこういう特徴だよ!」とか、「こういうところが上手で、こういうところは訓練が必要だよ!」ということを教えてくれます。また自分が好きなアーティストなんかを参考にしながら自分の好きな歌い方なんかも分析しましょう。「私はこういう優しい歌い方が好きだな~」とか、「俺はシャウトするこういう表現がやってみたい!」とか、「私もこういう力強い声で歌ってみたい!」等々、何でも大丈夫です。自分のやりたいことを素直に自分の中から探していきましょう。もちろん、苦手なことや改善したいことでも大丈夫です。きちんと声について勉強してきた先生であれば、「なぜ声がそういう状態になっているのか」(原因)ということや、「こういう風にすると治りやすい」(改善)ということを教えてくれると思います。最後に、これからレッスンを始める方へ、良い先生の条件についてひとつだけ述べるとするならば、それは「正直であること」あるいは、「誠実であること」です。先生からすれば生徒の声を褒めるのは簡単ですし、本当は改善しなければならない声の課題があるのにそれに触れないこともできます。しかし、それは長い目で見たとき、もちろん生徒の為にはなりません。最終的には、その先生の言っていることを信じられるかどうかという信頼関係になってきます。しかし、結局のところその評価基準も自分の本能であったり、直観に頼らざるを得ません。ですのでもうひとつ、相手ではなく自分の価値基準として条件を述べるのであれば、「その先生とのレッスン時間が楽しいこと」あるいは、「レッスン中や終わった後に充実感が得られること」です。誰にでも経験があると思いますが、そういう時間は自分を成長させてくれます。


腹式呼吸と胸式呼吸

初めて歌を学ぶ半数以上の方は、おそらくはじめに腹式呼吸と胸式呼吸について習うのではないかと思います。ここからは、ミリッサ・マルデ/メリージーン・アレン/クルト=アレクサンダー・ツェラー共著《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと》と、バーバラ・コナブル著《音楽家ならだれでも知っておきたい「呼吸」のこと―豊かに響き合う歌声のために》という2冊の本を軸にしながら、私がこれまで学んできた知識や経験をもとに解説していきます。もし深く内容を理解したいのであれば本を読んでみることをお勧めします。意外と図書館にも置いてあることがあるので、是非探してみてください。今回は重要なポイントを抜き出しながら解説していきます。

呼吸

はじめに呼吸そのものについて考えてみましょう。世界にはヨーガ、気功、その他数千年来多くの呼吸法があります。他にも、精神面や心理面を重視した東洋的な座禅・瞑想なども数多く存在します。それらにはかなり共通した部分もあれば、全く異なった部分、あるいは各々に長所と短所があるのが実情です。そこで今回の呼吸については、歌唱と結びつく部分にポイントを絞って考えていきます。まず、呼吸というものは大別して、「無意識的呼吸(安静時呼吸)」と、「意識的呼吸(随時呼吸)」の2つに分類されます。無意識的呼吸というのは生命維持の為に行われる呼吸のことです。私たちは、「よし、1分間に16~18回ぐらい息を吸おう!」と思って息を吸っているわけではありません。呼吸は誰しもが無意識に、自然に行っています。次に意識的呼吸ですが、これはつまり、「よし、息を目いっぱい吸おう!」とか「腹式呼吸で吸うぞ~!」とかいうのはこの呼吸のことです。ボイストレーニングで私たちが取り扱うのはこの意識的呼吸の部分になります。ただし、この項目で歌唱との関連で大切な感覚は、「無意識で行われる呼吸と意識的な呼吸をうまくつなげる」というところです。例えば、最後まで息を吐き切れば、肺は意図せずとも勝手に膨らもうとします。この勝手に膨らもうとする身体機能的な動きはほとんど無意識的な動きです。つまり、先行して意識的に肺の空気を吐き切ることで、その次の呼吸(無意識的で本能的な身体の動き)をある意味で意志的に、そして自分の歌唱の味方につけることができます。このとき肺は、最も効率よく多量の空気を肺に入れることが出来ます。更に、無意識と意識的な呼吸を繋げるというところで述べると、例えば私たち歌手が行う腹式呼吸のトレーニングは、「息を吸ったとき(歌う時)に無意識的に腹式呼吸ができるようになる」ことを目標としています。もちろん、誰しもトレーニングをはじめたばかりの頃は意識的に腹式呼吸をしなければならないのですが、トレーニングを重ねることで、最終的にはそれが自然とできるようになっていきます。そうなってくれば、呼吸に意識をもっていかなくても、他のこと、例えば音程や音色、声のポジションや表現といったことに集中できるようになります。このように、意志的に行っているものを無意識で出来るようになるのが訓練であり、ボイストレーニングそのものであると言えるでしょう。呼吸についての生物の進化の歴史や呼吸全般について更に深く学びたい場合は、米山文明著《声の呼吸法-美しい響きをつくる ー》がお勧めです。

呼吸の基本原理

ここで呼吸の基本原理について押さえておきましょう。

  • 筋肉は動くときに収縮します。すなわち、繊維が短くなります。
  • 収縮した筋肉は、作業が終わると自然に開放されて休んだ状態に戻ります。(緊張と緩和)
  • 解放された筋肉には伸縮性があります。これはゴムバンドが伸ばされたあとに元の状態に戻るのとよく似ています。(この性質を「弾性反張(だんせいはんちょう)」と呼びます。)
  • 多くの筋肉は、他の筋肉と反対に動きます。いわゆる「拮抗筋」と呼ばれる対になった筋肉では、一方の筋肉を収縮するために、もう一方の筋肉を開放しなければなりません。

この呼吸の原理で大切なことは、呼吸は筋肉であるということです。ですので、ここでは筋肉について理解することが大事になってきます。筋トレをしたことのある方はこの文章を読んだだけで具体的なイメージがつかめると思いますが、筋肉は使っているときに収縮します。そしてそれが終わると開放されます。呼吸に使わる筋肉ももちろん同様で、息を吸うとき(吸った状態)に収縮が起きており、そこから息を吐くときに緩和と開放が起こります。多くの歌手で起こる障害は、この緩和の時に「必要以上に支えすぎてしまう」ことだろうと思います。必要以上に息を支えることは自然な息の流れを妨げてしまい、自然な響きを損なってしまいかねません。この筋肉の収縮についてはまた横隔膜との関連で触れていきます。

胸式呼吸

ここから胸式呼吸と腹式呼吸、その二つの違いについて学んでいきます。まずはじめに理解するべきポイントは、「胸式呼吸と腹式呼吸は常にどちらかが優位か劣勢かというだけで、どちらかをすればどちらかが消えるわけではない」ということです。つまり、「胸式呼吸100:腹式呼吸0」とか、「胸式呼吸0:腹式呼吸100」とか、そういうことではないということです。実際にこれは数値で表すことは不可能で、腹式呼吸を優位にするとか、胸式呼吸を少なめにするとかそういう風に捉えてください。例えば、仰向けのときの呼吸は横隔膜による腹式呼吸がかなり優位になりますし、立っているときでは胸式の方が優位になります。さて本題の胸式呼吸について説明すると、胸式呼吸とは胸郭を操作する呼吸法です。そして理解すべきポイントとしての特徴は横隔膜との連動がないことです。胸式呼吸は、他にも、「全速力で走った後の呼吸」であったり、「肩が上がる呼吸」であったり、「浅い呼吸」といった風にも説明されたりしますが、どちらにしても歌唱との兼ね合いで考えるのであれば、「横隔膜との連動がない」ということが最大の特徴だろうと思います。それでは何故それが歌に適さないのか、あるいはどうして胸式呼吸よりも腹式呼吸の方が歌唱において優位性があるのかについては次の項目で触れたいと思います。

腹式呼吸

胸式呼吸が「むねしき」であるのに対して、腹式呼吸は「おなかしき」の呼吸です。ここで言語的によく起こる勘違いが、お腹を動かすのが腹式呼吸で、そうではないのが胸式呼吸であるという認識です。あながち間違いとも言い難いのですが、少し誤解を生むかもしれません。《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと》で述べられているボディ・マップ(身体のパーツの大きさや機能や場所を正確に認識すること)では、肺の位置は、いわゆるお腹(おへそあたり)ではなくて鋤骨の後ろ、むしろ胸のあたりに存在します。(図参照)

ですので、おへそのあたりで息を吸うとどれだけ言ったとしても、そこにあるのは腸とかそういうものですので、どう頑張ってもそこに息は入りません。しかし呼吸と同時にそのあたりが動くことがあります。それはその部位に横隔膜との連動が存在するからです。横隔膜との連動については具体的に次の項目で触れます。次に、どうして腹式呼吸が歌に使われるのかについて説明したいと思います。腹式呼吸が歌唱に適している理由は大きく2つあります。それは、腹式呼吸は胸式呼吸と比べて、①「息の吸う量(肺活量)を多くすることができます。」そして、腹式呼吸にすることで、②「呼吸と横隔膜との連動で歌う時に声を(息を)支えることができます。」①から説明すると、歌に関して言えば息を沢山使えれば使えるほど有利です。これは声というものが息で作られているので当たり前のことではありますが、息が多ければ長いフレーズを歌うことが出来ますし、もちろん声量も調整したりダイナミクスを作ることができます。ですので、空気の量は結果としてより豊かな表現に繋がります。次に②ですが、腹式呼吸によって横隔膜と連動した空気は声の支えとして使うことができます。《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと》で述べられている二つの支え、身体構造的な支えと、呼吸の支えでは、次のように述べられています。

「支え」は、2つに分類でききます。構造の支えと呼吸の支えです。~中略~「呼吸の支え」とは呼吸の動きがどのように音をだしやすくするかということです。息を吸うときに、腹筋と骨盤底の筋肉が開放されゆるむままにさせれば、この2つの筋肉の弾性反跳が、次に息を吐くときの流れの助けになるーつまり「支え」てくれます。~中略~つまり、上手に息を吸えば、腹筋、骨盤底、助軟骨から、絶えず支えを受けられるのです。~中略~このためには、助間筋と横隔膜を徐々に開放しながら、助骨の下がりぐあいを調整します。

出典:《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと 74ページ》

この中で重要な考え方は、先ほども呼吸の基本原理で触れた弾性反張です。これは簡単に言うと、「筋肉は伸びると縮もうとする」「縮むと伸びようとする」というような、自然な筋肉の反発(バネ)のことです。息を吸い、肺が高気圧になって周りの筋肉が緊張した状態から、息を吐くときに起こる筋肉の緩和と開放に身をゆだねる感覚が大切だと述べられています。また、この項目では、「もっとしっかりした支え」が必要かどうかを問題にする前に、もっと「空気の流れ」が必要かどうか、あるいは、「もっと流れを抑えること」が必要かどうかを問いかける必要があると述べられています。声の支えは大切な要素のひとつではありますが、それによって身体がガチガチになってしまい、持っている呼吸さえ使えなくなってしまうのでは本末転倒です。

こういった理由から腹式呼吸は歌においてとても大切なテクニックとして認識されています。では実際にどうやって腹式呼吸を行うのかについて述べていきましょう。まず腹式呼吸は寝ているときの方が優位になります。ですので、もし自宅でこの記事を読んでいる方は是非寝ながら読んでください。そして自分の手で肺の位置や横隔膜の位置を確認してください。自分の身体を触りながら実際に呼吸する場所やその具合を確認する作業はボディ・マップの観念から非常に大切なことです。私自身もこのやり方を取り入れてからパフォーマンスが確実に向上しています。また、肺は背中の方に多くの容量を抱えています。もし息を最大限、上手に吸えているのであれば背中の方が膨らむ感覚になると思います。下の図は肺を上の方から見た断面図です。手前の背骨・背面の方に、より沢山の容量があることを確認してください。この図と自分の身体の感覚をマッチさせるように呼吸を試みてください。

横隔膜との連動

以上のように、胸式呼吸が胸郭の筋肉を使って吸う呼吸であるのにたいして、腹式呼吸では横隔膜と連動して呼吸を行います。これは先ほどの本の中で「横隔膜の往復運動」と呼ばれています。横隔膜の筋肉は、この往復運動によって、高いドーム状(息を吸う前)からよりなだらかなドーム状(息を吸ったとき)へと変化していきます。具体的には、息を吸ったとき横隔膜は下に下がり(収縮して)、息を吐くときには横隔膜が自然と上がってきます(緩和され広がる)。歌うための呼吸を鍛えるには、肋骨が下へ・うちへと最大限の往復運動をしなければならないのと同様に、横隔膜もドームが最大限高くなるように往復運動をしなければなりません。下の図はそれを分かりやすく示しており、息を吸ったときには黒矢印のように横隔膜が下に、肺が横に広がるように動き、息を吐く時には白矢印のように筋肉が開放される様子を表しています。ボイストレーニングでは、この肺と横隔膜の往復運動をスムーズに行えるように訓練する必要があります。


歌うときの姿勢について

良い姿勢とはなんでしょうか?歌うときの姿勢については、たびたびレッスンで問題になる項目のひとつです。アレクサンダーの本で「姿勢」は、次のように述べられています。

いわゆる「良い姿勢」で歌おうとする歌手がマンガっぽく見えるのはなぜでしょう?歌手自身も、身体がこわばって苦しいと不満に感じます。~中略~その原因は、「姿勢(posture)」という言葉にあります。これはそもそも、「静止」とか「完全に止まったまま立つ」という意味を持ったことです。歌にはつねに動きが必要なのに、姿勢という言葉はそれとは正反対のものなのです。

出典:《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと 12ページ》

更に、本の中では「姿勢」というものを有効な別の言葉で言い換える試みがなされています。その一例として、①「バランスの取れた身体」②「はつらつとした身体」③「弾むような身体」と表現されています。これらの表現は確実に歌う時のパフォーマンスを向上させます。また先ほどの文章に出てきたように、「歌にはつねに動きが必要」という部分は非常に重要です。息を流すことや良いパフォーマンスの為には身体のリラックスが必要不可欠です。もし身体を硬直させてしまえば、本当は流すことができる息をも止めてしまいます。長く歌を勉強してきた方であっても、もう一度自分の姿勢について考えるのはとても意義深いものです。実際、「固定された姿勢」あるいは「固定された概念」は本来つねに動きを持つ歌や音楽とは少し離れたところにあるのです。また本に記載されている、いくつかの「姿勢」にまつわる有害な神話についても触れておきます。

  • 【壁を使った練習】…多くの歌手が姿勢を良くするために壁に背中をつけるように言われます。私もその経験があります。しかし身体構造について学べば学ぶほど、この「良い姿勢」を作ろうとする行為が正確なボディマッピングとは相反しており、美しい歌唱の弊害になることが分かります。具体的には、壁に背中をつけて立つと、脊柱の後ろ半分と背中の筋肉を真っすぐにさせて脊柱の自然なカーブを平らにしてしまいます。このような状態になると、歌手はボディマッピングのとき、「脊柱は全て身体の後ろにあって、前の方に臓器や筋肉がある」と誤解していまいます。歌手に必要なことは身体の中心でバランスととりながら体を支えることであり、それこそが自然な息の流れを助け、美しい歌唱へと結びついていきます。
  • 【真っすぐに立ちましょう】…こんな風に言われた経験がある方もいるかもしれません。あるいは「脊柱を真っすぐにしなさい、しっかりした木の棒のように。」これらの言葉は身体の構造上不可能です。というのも、脊柱はもともと波をうつようなカーブをもっています。ですので、身体を伸ばそうと真っすぐ立とうとすればするほど背中をはじめとして全身に不要な緊張を与えることとなります。必要なのは身体の開放であり、バランス良く立つということが真っすぐに立つことよりも重要です。
  • 【胸を高くして】【肩を後ろに引きなさい】【骨盤を閉めなさい】…これらのすべての言葉は不要に身体を緊張させてしまい、自然な呼吸や歌唱を妨げてしまいます。他にもいくつか誤解を招きかねない言葉がありますが、重要なことは「バランスのとれた身体で歌う」ということです。
  • 【見えない糸】…「見えない糸で上の方から引っ張られているイメージで。」このように指導をされたことがある方もいると思います。これはこれまでの例と同様に、首周りに不要な緊張を与えてしまいます。頭は環椎に乗っているものなので、動作は頭の下で生じます。正確なボディマッピングでは、首は緊張から開放され、声も歌もより自由になるべきなのです。

これらの言い回しは、身体の誤った使い方を誘発します。もしこれらの言葉を忠実に実践しようとすれば、身体を筋肉によって再調整させることになり、身体を不自然なポジションに抑制させてしまうからです。その結果として、身体の軽快さは制限され、声の自由が奪われる結果となります。ここの項目で最も大切なことについて述べるとすれば、それは「バランスの取れた身体で歌う」ということです。是非自分の中で最も適当なバランスのとれた身体の状態、歌うために有効な「居場所」を見つけてください。そしてそれを意識する前と後とで声がどう変化したか確認してみてください。

からだを支える6つのポイント

まずは図をご覧ください。

骨格上のバランスを理解することは、安定して歌うために必要不可欠な知識です。私たちが上手に歌っていると、私たちは脊髄を中心にして支えられ、整えられた全身で歌っています。脊髄が自然なカーブを描いていることも頭に入れておいてください。そして、私たちの身体の中では、上から順に、①「脊髄上の頭のバランス」、②「脊髄の上の方でぶら下がっている腕構造のバランス」、③「がっしりとした腰椎上での胸郭のバランス」、④「脚上の上半身のバランス」、⑤「膝でのバランス」、⑥「土踏まず上での身体のバランス」を感じることができます。このバランスの大敵は先ほど触れた、「まっすぐ立つ」「前かがみになる」ということです。先ほども述べた通り、まずは「バランスの取れた身体で歌う」ことを心がけてください。これが最も簡単にできて、全てに通じる基礎の部分です。


ボディ・マップとは

先ほどから何度も出てくるボディ・マップとはいったいなんでしょうか。本の中では次のように述べられています。

ボディ・マップとは、あなたの頭の中でイメージされている身体の大きさ(サイズ)や構造・機能のことです。これは歌手にとってこのうえなく重要です。なぜかというと、身体の動きが適切かどうかは、ボディ・マップによって決まり、マップの完成度に左右されるからです。ボディ・マップを修正し、洗練することができれば、身体の動きは改善されて、その結果として、歌は上達していきます。

出典:《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと 12ページ》

このように、ボディ・マップの目的を噛み砕いて言うと、「自分の身体のことを正しく理解して、それを使おう!」ということです。もう少し具体的に言うと「どこにその筋肉があって、どう機能するのか」ということです。本の中では、その理解度によって働き方に差が生じると述べられている。そのため、それらを学ぶことで歌唱に役立てようというのです。ボディ・マップには、①「大きさ」②「構造」③「機能」の三つの要素があります。細かい部分についてはここで取り扱えきれないので、詳しく学びたい方は《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと》の購入をお勧めします。更にここでもうひとつ重要な要素として本書では「筋感覚」というものと、「包括的認識力」について述べています。どちらの言葉も本書ではこのように述べられています。

筋感覚とは、人間が持っている6つめの感覚で(いわゆる「五感」とは違って、忘れられがちな感覚です)、身体が動いていることを知覚する感覚です。筋感覚として身体の動きを知覚することができると、動きの大きさや場所、その質の違いなどをはっきりと区別できるようになります。その能力は、美しく健やかで、あなたの歌が聴く人のこころに届くようになるには、欠かせない能力です。

包括的認識力というのは、あなたの内と外とで起こっているすべての経験をはっきりと感知して、それらを総体的な気づきとしてとらえる能力のことです。筋感覚はこの「包括的認識力」の一つです。

出典:《歌手ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと 2ページ》

筋感覚

筋感覚を噛み砕いて説明すると、筋感覚とは、動いているときの身体の感覚のことです。目を閉じると筋感覚は鋭くなります。例えば、目を閉じた状態で呼吸を意識すれば、息を吸う為のが動いていることを筋感覚としてハッキリと感知することができますし、どこかに力を入れればそれを感じることができるはずです。このように、筋感覚は目で見ることが出来なくてもその部分に実際それが存在していて、その位置や動かす速さ、動きなどを感じ取ることができます。この感覚を訓練することは、歌手にとってとても重要なことです。自分の身体の鍛えたい部位を意識してトレーニングすることで、普段の発声や歌唱はまた違ったものになるはずです。

包括的認識力

包括的認識力というのは、自分と世界とを同時に感じる能力です。先ほどの筋感覚もそれに含まれます。この能力を理解するために注意力との違いについて考えていきましょう。注意力には3つのタイプがあります。それが、①「集中力」②「すばやい気配り」③「包括的認識力」です。まず①の集中力ですが、これはひとつの物事にだけ向けられる注意力であり、限定された能力です。イメージとして例えば、「一曲を通してピッチを合わせる」ということにだけ集中するという様な場合です。これはいわば、懐中電灯である一点を照らしてそこにだけスポットライトを当てている状態と言えます。これと関連して、②のすばやい気配りは、次々と集中力を変えていくことを言います。懐中電灯を次々と色々なところに当てるのをイメージしてください。例えば、「ピッチを合わせる」ということから、「呼吸に集中する」ということであったり、「ここでは身体をリラックスさせて」のように、集中力が次々と移動します。最後に、③包括的認識力は、前の二つが世界を切り取ったものであるのに対して、逆に様々な要素を結び付ける力となります。先ほどの注意力という懐中電灯を持っていたとして、あなたは何歩か後ろに下がることで、歌うのに必要な全ての要素を照らし、その光の中に取り込むことができるようにすることです。それこそが歌うのに必要な全てであり、包括的認識力なのです。例えば指揮者が音程に注意を払いながらリズムやテンポにも気を使い、更にはソリストの息遣いや間も感じながら、出だしの合図を送れるのは、こういった包括的認識力を備えていると言えます。歌手の場合は、声のバランスやピッチ、音色、呼吸に関わる筋肉の感覚や聴衆の反応等、そのすべてを関連付けしながら認識しながら歌うことです。それはあなたの身体の内にある気づきが、外の気づきと同時に統合されているからです。包括的認識力を使うことで、これらの要素を同時に認識することができます。何かを排除する必要はありません。この能力はあなた自身の「気づき」を自分の身体の中と、外部の世界との両方に拡大させていく能力であると言えます。そうやって、全てを包括して認識することによって、その瞬間その瞬間で一番必要なこと重要なことに簡単に注意を向けることができるのです。最高の歌手、ダンサー、アスリートなどは自然にこの統合された認識力を使っているといわれています。この能力は開発することができ、誰でも訓練次第で身に着けることが可能です。


声のバランスについて

私のレッスンを受けたことのある方には必ずお話しているのが声と空気のバランスについてです。私はこの説明をするときに、声というものはイメージとして声の芯の周りに筒状の空気がくっついている(まとわっている)と考えて貰っています。ここで私が言う声のバランスとは、①「声の芯が多い声」(声ばかりの声)と、②「空気が多い声」(ささやき声)です。まず①について説明すると、これはいわゆる「ダミ声」と言われるものであったり、あるいは赤ちゃんの泣き声やカラスの泣き声といったように、声ばかりの声です。サイレンの様な声もこちらに分別されますし、いわゆる地声をそのまま歌声に持ってきている方もこの芯の多い声、声ばかりの声になってしまうことが多いように感じます。そういった解釈から①の対極である②を考えると、これは声帯が閉じ切っていない息漏れした声、あるいはウィスパーのような囁き声になりますが、これはこれで問題です。しかしここで理解しておくべき重要なポイントは、①と②を比較したときに、声帯への負担やリスクを考えれば、②の息が多い声の方が安全であることは明らかです。息漏れした声はどれだけ出しても疲れませんが、声ばかりの声は長い時間出すことは難しいですし、喉に負担がかかってしまいます。では一体どういう声が良いのかと言えば、私の考える最もニュートラルな声と息のバランスの理想は、「声帯が出来るだけ小さく合わさった状態で息が多い声」(声に芯はあるが息が多い声)です。更に言えば、「声ばかりの声」は多くの人が出すことが可能です。なぜなら、声帯に負荷(圧力)をかけてそこに息を流せばそれで出るからです。それに比べて、声帯を最小限に小さく合わせて、そこに息を流すことで声量を増やしていくやり方は訓練が必要です。それはトレーニングによって達成されます。

どこに息を流すのか(声のポジション)

さて、それではどこに息を流すのか。これも声の質を大きく左右します。まずは図をご覧ください。

まず一般的な原理として、肺から上がってきた空気は声帯にぶつかり、そこで音になります。それからその音(空気)は声門を通って声が外に出ていくのですが、「声がどこを経由するのか」で声は全く違ったものになります。我々がいわゆる地声と呼んでいるものは、声帯に当たった空気がそのまま直接口から出たものです。図で言うと下の通り道です。それに対して、歌声・あるいは裏声を出すときには、必ず声が鼻腔の方を経由してから(あるいは共鳴してから)外に放出されます。ボイストレーニングのレッスンで裏声の練習をさせられることがよくあるかと思いますが、これは鼻腔の方に声を回したり、その部分の感覚をつかむのに大変有意義なトレーニングです。声をこの後ろの方、あるいは鼻腔の方、軟口蓋の方へ回すにはトレーニングが必要です。感覚的にまずその場所を探す作業が必要になりますし、普通にしゃべるよりも沢山の息や、息の速さ、圧力が必要です。ただアドヴァイスとしては、初めてこのポジションを探すときにはピアノで声を出すことをオススメします。軽く、鼻歌のような感じで高いポジションを探してみてください。


終わりに

はじめにも書きましたが、歌を学ぶということはそんなに簡単なことではありません。主体性を持って声について考えたり、トレーニングをしなければなかなか上達しません。しかし、ただひとつ言えることは、歌は最高だということです。人は勇気が必要なときに歌を歌い、泣きたいときに歌い、楽しいときに歌い、辛いときに歌を歌い、幸せなときにも歌を歌います。音楽は非常に人間の根源的な活動であり、あなただけのものであると同時に、全ての人のものでもあります。音楽を通してあなたの人生が豊かになったり、この記事を通して新たな発見があって歌が少しでも上達したり、そんなこんなで誰かがハッピーな気持ちになれば頑張って書いたかいがあります。

もし記事を読んでみて、「この人からレッスンを受けてみたい!」という方や、今回の記事が基礎的な内容だったので、「もっともっと深い内容について知りたい!」という方がいれば下記の問い合わせフォームからご連絡ください。追って具体的なレッスンや内容についてご連絡致します。基本的にはミュージックスクール等でのレッスンよりもリーズナブルにご案内できます。問い合わせの際に、疑問点や、今悩んでいる声のこと等をご記入頂けるとありがたいです。クラシックはもちろん、J-Pop、洋楽も指導致します。個人だけではなく、合唱団等での基礎的なレッスンも大歓迎です。それでは、皆さんの人生が音楽でより豊かになることを!Enjoy music!!

 

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